坊守日記

『桜』

寺の庭に桜の木が二本ある。一本は院主が植えた木だが、もう一本は私の実家から両親が亡くなり、その後にお寺に持ってきたものだ。

元々、実家には八重桜があった。その木は、季節になると道を通る人の目を釘付けにし、私たち家族を和ませてくれた。その木も実は母の実家からもってきたものだ。しかし、その木は時が流れ、不思議なことに、母がアルツハイマー型認知症と診断を受けたとたんに、枯れてしまったのだ。

桜は花が咲いているときは楽しいが散ったあと片付けが大変なので、内心気に掛ける物がなくなり、ほっとしていたのも束の間。いつの間にか、実家の庭には父の手により新しい桜の木が植えられすくすくとそだっていた。それが今お寺にある桜なのだ。

当時、父はきっと、桜と一緒に痛んだ母を不憫に思い植えたのだと思っていたのだが、今思えば、桜を育てるように母の病と共に歩もうとした父なりの覚悟だったのかもしれない。

春になると、父の桜は静かに何かに寄り添うように花を咲かせる。